先日何気なく真空管関連のブログを眺めていたら、当サイトのリンクが貼ってある部分がありました。このように引用していただけるのはありがたいことです。
ところがそれに対する反論で、「この内容の危険なところはg2電流を計測してない点で、測りもにせずに平気だというのはアホです。」と書いてありました。
・・・まったくその通りで返す言葉がありません。実際アンプ製作時にg2電流(Ig2)を計測してもほんの数ミリアンペアしか流れていないので、ほとんど無視してきました。
またカーブトレーサーによる計測では、カーブトレーサーにかかるプレート電圧がスイープ用の脈流で、さらにきれいな正弦波状でないため、g2用電流計には不確定な約4分の1程度の数値しか表示されないのです。
そこでg2抵抗の両端ピーク電圧をオシロで計測する方法が考えられますが、それでもこうした値はあくまで静特性値であって、実際のロードライン上のg2電流値ではありません。
やはり2kV、500mAくらいの可変DC電源を作り、さらに2kWくらいのプラグインダミー負荷抵抗を用いて、きっちり計測しなければならないのでしょうか。
このままではアホから脱却できないので(本当はできなくても良いが)そうした大がかりな測定装置では無い手法を考えてみました。
まずはカーブトレーサーからIg2を単独で取り出さなければなりませんが、センサーはカソード側についているのでIpとIg2は一緒に出てしまいます。
そこで別電源をIp専用に設け、プレートからカソード間に接続します。その上でEg2をスイープさせればIg2を単独に計測でるはずです。
次に3結時のIp-Ep特性を計測し、それにロードラインを引きます。そしてロードライン上の特定プレート電圧に対応しているバイアス電圧をグラフから読み取ります。
今回はEb=500V、Ip=60mA、RL=10kΩという条件で動作させ、対応する計測ポイントはEp=100V・,200V・300V・350Vとしました。
本来ならばもっと高い電圧まで計るべきですが、可変高圧電源が350V止まりだったのでこうなりました。
次に上のグラフから読み取れたバイアス電圧0V,-11V,−28V,-38Vと、それに対応するEp(=Eg2)の条件下で、Eg2をスイープさせます。
各動作点におけるIg2 を表しているのが下のグラフになりますが、保護抵抗による電圧降下分を点線で補ってあります
これらのグラフから、Ep=500V、Ip=60mA で動作させるKT88の3結は、10kΩのロードラインにおいて
@Eg1が0Vの時(Ep=100V時)に10mAのIg2が流れこれがIg2の最大値となる。
AEg1が0Vからー38Vまで変化するとIpは28mA変化しIg2は2,2mA変化するため
g2は出力に対し8%程度寄与している。
BKT88の定格上のg2損失は6WだがEp=100V時、Pg2=1W、350V時では2,8Wとなり、
また計測域外の500V時では3,5Wと予測される。
CIpの変化よりIg2の変化が少ないためロードライン上は
Eg1が負になるほどPg2が増える傾向となる。
という事がわかりました。ただしCではバイアス設定値(無信号時)以外の信号によるPg2増加は、ピーク値なのであまり心配いりません。
問題はこの変な計測方法が正しいのか、DC電源で静特性から考察してみます。まず3結時Ip=100mAに対してIg2がどのように変化するか測ってみると、7〜10%の範囲に収まっていることが判ります。
またEp=Eg2=350VでIp=100mAつまりプレート入力35Wでも、
Pg2は3,15Wと、定格の半分程度であると判ります。
KT88(T)静特性
Ep(V) |
Ip(mA) |
Ig2(mA) |
Pg2 (定格6W) |
100 |
100 |
9,5 |
0,95W |
200 |
100 |
7 |
1,4W |
300 |
100 |
8,5 |
2,55W |
350 |
100 |
9 |
3,15W |
一方規格表ではほとんどの球のg2損失(Pg2)がプレート損失の15〜20%となっています。
いずれにしてもKT88の3極管接続において、その動作がプレート損失内ならばPg2を超えることが無く、G2損失に関しては、まず大丈夫と考えられます。
残る問題は、他の球でも3結時においてIsgがIpの10%程度となっているのかという点です。そこで6V6、6L6、6CA7、KT88、他のIp=50mAにおけるIg2をEp別に計測してみました。
Ip=50mAとしたのはプレート損失の小さな球も混ざっているためです。
Ig2特性(IP=50mA)
Ep=Eg2(V) |
Ig2(mA) 各真空管横のカッコ内はg2損失 |
6V6(定格2W) |
6L6(定格2,5W) |
6CA7(定格8W) |
KT88(定格6W) |
400 |
2,5 (1W) |
2 (0,8W) |
6,5 (2,6W) |
5 (2W) |
300 |
3,5 (1,05W) |
2 (0,6W) |
6 (1,8W) |
5 (1,5W) |
200 |
3,25 (0,65W) |
2,5 (0,5W) |
6,5 (1,3W) |
4 (0,8W) |
100 |
3,5 (0,35W) |
3 (0,3W) |
6,5 (0,65W) |
3 (0,3W) |
Ig2特性(IP=50mA)
Ep=Eg2(V) |
Ig2(mA) 各真空管横のカッコ内はg2損失 |
12GB3A(定格5W) |
12AV5(定格2,5W) |
GU50(定格5W) |
400 |
3,5 (1,4W) |
3 (1,2W) |
1,2 (0,48W) |
300 |
3,5 (1,05W) |
2,5 (0,75W) |
1,5 (0,45W) |
200 |
3,5 (0,7W) |
2,3 (0,46W) |
1,8 (0,36W) |
100 |
3,5 (0,35W) |
2 (0,2W) |
2 (0,2W) |
表では球によってバラバラの値を示しますが、どの球もEpに対する大きな相関関係は無く、数値的にもg2損失をオーバーすることはありません。
6V6などはEp=Eg2=400VでIp=50mA、つまりプレート損失の2倍程度(20W)入力しても、g2損失はわずか1W
(赤字のところ)と、十分な余裕を見せています。
どうも3極管接続とは想像以上にタフな活用法に見えます。ところがその本当の理由は、動的観測と静的観測の違いが見せる
トリックにあるのです。
そのトリックとは、
HVTCで高いg2電圧が掛かっているのは高バイアス時に限り、大電流の流れる低バイアス時にはロードライン上低いプレート(=g2)電圧へと変化するため、g2損失は大きくなりません。
一方5極管接続では低目のg2電圧に抑えられているかに見えますが、大電流時にもその電圧が維持されてしまうので、結局大きなg2損失が発生してしまうのです。
まるでわずかな金額しか返済していないようで、実は膨大な利息を払わされている、街金のようでもあります。
損失の次に気になるのがg2耐圧でしょう。そこで耐圧試験機(上の写真)によるg2耐圧テストの結果を載せてみました。ただし物理的耐圧のため、ヒーターは点灯させず、遮断電流は1mAとしました。
またこの計測は、あくまで対カソードもしくは対カソードプラスg3であって、対g1へのものはまだ記載してありません。
なお回路の遮断時、内部での放電光が一瞬確認されます。一方
4P60と4−400及び4E27に関しては測定限界の5kVでも遮断されませんでした。
Eg2耐圧テスト結果
表を見ると
6AR5や6V6が意外と頑張っていることがわかりますし、
2,5V管の2A5などもお歳の割りに大したものだと思います。また放電現象は電極間以外に、電極を結ぶリード部分などで発生している可能性もあります。
例えば
4D32や829b(FU29)の耐圧が低めなのは、g2〜k間に内蔵されているコンデンサの耐圧が効いているのかもしれません.。これにより以前製作した
4D32HVTCシングルは、ロードラインの右端が危険な値であることが判りました。
特にFU29による耐圧の低さは電極間ではあり得ない値であることから、周囲を暗くして耐圧試験を行うと、予想通り内蔵コンデンサのところでスパークが起きていました。
ただしこれらの値は、交流におけるRMS値ですから、ピークではその1,4倍までOKとなり、つまり6BQ5でも1600Vくらいまで、6V6なら3500Vまで耐えられることになります。
このように
真空管は高電圧に対しかなり強い半面、電力損失には敏感だというのが実情である中、多くの真空管マニアを支配しているのは、
5極管接続時におけるg2電圧規格超え=物理的g2耐圧超え=g2損壊
という恐怖感でしょう。
しかしそれはコロンブス以前の時代における、水平線の果てに住む怪物のようなものではないでしょうか。船出の日は、もう目の前まで来ています。
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